神経筋疾患の嚥下障害

投稿者: | 2022年7月2日

神経筋疾患の嚥下障害の出現様式による分類

 

1)急速に進行するタイプ

筋萎縮性側索硬化症:ALSなど

 

2)緩徐に進行するタイプ

パーキンソン病関連疾患(パーキンソン病(PD)進行性核上性麻痺(PSP) etc)、

多系統萎縮症(MSA)、脊髄小脳変性症(SCD)、

筋ジストロフィー

Duchenne型筋ジストロフィー、筋強直性ジストロフィー

(タイプにより、病態や対策が異なることに注意)など

 

3)嚥下障害が変動するタイプ

症状変動のあるPD、重症筋無力症(MG)、多発性硬化症(MS)など

 

 

筋萎縮性側索硬化症(ALS)の摂食嚥下障害

1)先行期

上肢筋力低下・頚部筋力低下・頸下がり・呼吸との協調不全

気道防御困難または不能・うつ症状、認知障害

2)口腔期障害

咀嚼筋力低下・捕食困難・不可・口腔周囲筋力低下・唾液保持困難・流涎・舌の萎縮と線維束性攣縮・咀嚼力低下・鼻咽腔閉鎖不全

3)咽頭期障害

口蓋・咽頭筋力低下・輪状咽頭筋弛緩不全・声帯機能不全・嚥下反射の遅延・誤嚥・舌骨挙上不全・喉頭蓋谷・梨状窩への残留

4)食道期障害

あまり障害されないとの報告が多い

5)その他

喀出力の減弱・急速な経時変化・栄養障害

 

 

ALSの摂食嚥下障害経時的変化

 

1)咽頭期障害が優位に先行する場合と、口腔期障害が優位に先行する場合があるが、病状が進行すると口腔期・咽頭期ともに重度に障害される。

2)初期には頸を前屈して嚥下するなどの代償的テクニックを経験的・無意識に体得していることもあるので、その適否を正しく評価することが、患者との信頼関係にもつながる。

3)呼吸不全と嚥下障害は並行して進行する。呼吸不全が見られた時は、摂食嚥下障害が存在する。

図:呼吸不全(%FVC)と摂食嚥下障害(FRSsw)は並行して悪化していることがわかる。

 

 

ALSの栄養管理

 

・栄養不良は生命予後に影響するため、病初期からの栄養管理が重要である。

・栄養状態は、摂食嚥下障害の初期より不良であることがあり、患者自身も気づいていないことがある。

・定期的な栄養評価をおこない、体重減少を最小限に抑える。

・呼吸管理をおこなう進行期にはエネルギー消費は減少していくため、それまでの投与エネルギー量を続けているとエネルギー過多になるので注意する。

・経口摂取が不十分の場合は早期に人工栄養を導入する。

・胃瘻造設は、造設時の呼吸不全悪化のリスクがあるので、%FVC50%以上が望ましい。造設にあたっては、患者・家族に利点とリスクを十分に説明し、希望する場合は呼吸不全が進行する前におこなう。

 

ALSの摂食嚥下障害対策

・早期発見と早期介入 :早期には患者が自覚していないないしは認めたがらないこともある。特に、摂食嚥下機能に適した食生活であるかどうかを評価する。

・残存機能を生かすリハビリテーション :廃用症候群への効果がある

・定期的評価 :診断直後からの嚥下・栄養・呼吸の定期的評価が早期発見につながる

・誤嚥対策:誤嚥を繰り返す場合は、誤嚥防止術も適応 である

・受容を助ける:摂食嚥下障害の進行速度に受容が追いつかないことも多く、理解と受容を助ける。

・味わう楽しみを尊重:味わうだけでのみ込まないなどの方法も提案。メンタルケアが重要となる。

・次に起こる障害を予測:予め補助栄養やPEG、呼吸管理の併用、誤嚥防止術などの計画をたて、患者の理解、受容を援助する。

・呼吸不全管理と摂食嚥下障害対策:呼吸不全により摂食嚥下機能が低下することもあり、対処方法についての連携に十分注意する。呼吸管理を希望しない場合は、患者の意思に沿うよう配慮する。

 

 

パーキンソン病患者の摂食嚥下障害の特徴

・パーキンソン病患者の半数以上に存在する

・病初期から存在することもある (Hoehn-Yahr重症度1度でもみられる)

・重症度とは関連しない

・摂食嚥下障害の自覚に乏しく、不顕性誤嚥も多い

・摂食嚥下の各相にわたる多様な障害 がある

・抗パーキンソン病薬の効果や副作用の影響をうける

・食事性低血圧(自律神経障害のため、食事中または食後2時間以内に、血圧が20mmHg以上低下)のため、時には失神することがあり、食物窒息の原因となる

・機能外科治療により、他の運動症状が改善しても、嚥下障害については不変ないしは悪化することがある

・呼気加速(咳)が低下しており、その程度は誤嚥と関連がある

 

多様な障害(抗パーキンソン病薬の影響も含む)

1)先行期:うつ症状、認知障害、上肢や顎の強剛や振戦、頭部や頸の姿勢(斜め兆候)

2)口腔期障害:舌運動や咀嚼運動の緩慢・振戦・ジスキネジア、口腔乾燥、流涎

舌・口腔周囲筋の強剛

3)咽頭期障害:嚥下反射の遅延、咽頭蠕動運動の減弱、喉頭挙上の減弱、喉頭蓋谷・梨状窩へ貯留、誤嚥

4)食道期障害・・・上部食道括約筋の機能不全、食道蠕動運動の減弱・胃食道逆流

5)食事性低血圧、OFF時の嚥下障害の悪化

 

 

PDの摂食嚥下障害対策

・PDの運動機能障害のコントロール(投薬・リハビリ)をおこなう

・訴えがなくても、疑いがあれば評価をおこない、早期発見に努める

・摂食嚥下障害を発見したら、まずは嚥下機能に適した嚥下調整食とポジショニングをおこなう

・Wearing offのある場合は抗パーキンソン病薬を食後服薬から食前服薬へ変更し、on状態になってから摂食するように指導する。

・“On”時間を延長させ、 “On”時間帯に摂食させる努力をする

・食事性低血圧がある場合は食事中の監視を十分に行い、食後2時間程度の起立や歩行、場合によっては座位も避けて、安静を保つ

・悪性症候群による摂食嚥下障害では、急性期に安易に経口摂取させると誤嚥性肺炎を発症させるので、一時的には経管栄養で乗り切り、回復後に嚥下機能を再評価し、食事を開始する

・廃用症候群への介入が必要であり、継続的なリハプランが求められる。

・嚥下調整食を長期に継続できるよう、メニューの工夫や調理法の指導など介護者へのサポートが重要である。

・長期化に伴う肺炎や栄養障害、経腸栄養剤による合併症への対策が必要である。

 

 

Wearing off のある場合

・食後服薬ではoff 症状の強い(嚥下障害の強い)ときに食事することになる。

・食前服では、on 状態(嚥下状態が最も良い)ときに食事をすることが出来る。

 

 

Duchenne型筋ジストロフィー(DMD)の摂食嚥下障害の特徴

先行期:上肢筋力低下・脊柱変形・呼吸不全

口腔期:咬合不全・口唇閉鎖不全・巨舌・舌運動障害・咀嚼運動障害

咽頭期:咽頭筋力低下・喉頭蓋や梨状窩への残留・ 嚥下反射の遅延・誤嚥・喉頭挙上減弱

食道期:上部食道括約筋機能不全・胃食道逆流

 

 

DMD摂食嚥下障害対策のポイント

1)10歳代半ばより咬合障害や巨舌など口腔期の異常が出現し、さらに20歳頃より咽頭筋力低下により咽頭期障害が出現するので、初期から中期には水分の嚥下は比較的良好であり、経腸栄養剤にて補助栄養対策をとる。

2)緩徐に進行するため、摂食嚥下障害に気づきにくいので、注意深い観察が必要である。

3)脊柱の変形や上肢筋力低下による摂食障害があり、頻拍や体動が目立つときは疲労に注意する。

4)呼吸不全は嚥下状態に影響を及ぼす。呼吸不全初期においては、夜間のみ呼吸器を装着し、日中は外していることが多いが、食事中に呼吸に負担がかかると、SpO2が低下することがあり、この場合は呼吸器を装着して摂食することが望ましい。

 

 

筋強直性ジストロフィー(MD)の摂食嚥下障害

1)自覚のない誤嚥が多い。

2)誤嚥・窒息が予後に影響を及ぼしていると考えられる。

3)液体の嚥下障害のほうが重篤である。(DMDとの違いに注意する)

4)摂食行動異常などの認知期障害・不正咬合などの準備期障害・鼻咽腔閉鎖不全などの口腔期障害・咽頭残留誤嚥などの咽頭期障害・食道拡張などの食道期障害など、すべてのプロセスにおいて障害される。

先行期:認知障害 ・摂食行動の異常(病識が乏しい場合が多く、次々とほおばる行動がみられる)食事中の窒息のリスクが高い。呼吸不全による影響

口腔期:咬合不全・口唇閉鎖不全・舌運動障害・鼻咽腔閉鎖不全・咀嚼運動障害

咽頭期:咽頭筋力低下・喉頭挙上減弱・喉頭蓋谷や梨状窩への残留・嚥下反射の遅延・誤嚥誤嚥してもむせないことが多い

食道期:食道蠕動異常・遅延

 

 

筋強直性ジストロフィー(MD)の摂食嚥下障害対策のポイント

・自覚のない誤嚥が多く、突然の誤嚥・窒息で緊急入院することがあるので、平素の教育が必要である。

・次々に口に頬張るなどの摂食行動異常は、窒息リスクを高めるので、在宅療養の指導が重要である。

・DMDと異なり、液体の嚥下障害のほうが重篤であることに注意する。

・自立しているように見える口腔ケアなども、筋力低下などに伴い不十分になってくるので、定期的チェックが必要である。

・呼吸不全による影響を見逃さないように注意する。

 

 

MGの摂食嚥下障害の特徴

・嚥下筋力の低下によりおこる

軟口蓋挙上不全 舌骨挙上不全

・食事による疲労現象がみられる場合や、摂食時間の後半に咀嚼運動が改善する場合などがある

・症状の寛解・増悪がある

・胸線摘出術後やクリーゼにより摂食嚥下障害が極めて重篤となることがある

・球症状が初発となる病型もある(抗Musk抗体陽性のタイプ)

・嚥下機能検査のテンシロンテストはMGの診断と治療方針の立案に有用である

・誤嚥はMGの症状をさらに悪化させる

 

 

MGの嚥下障害対策

・変動する病状にあわせたタイムリーな対応と患者教育が必要である

・咀嚼嚥下の疲労現象を早期に発見する

・増悪時やクリーゼの時は

原則として経口摂取は中止する。

寛解する可能性があるので、無理して食べない ことを指導する。

誤嚥はMGの症状全体を悪化させることに留意する。

・嚥下障害悪化のサイン(しゃべりにくい、鼻声、のどの違和感、水分が鼻へ逆流など)に注意する

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