障害とは?スペシャルニーズな人たち

投稿者: | 2017年7月26日

障害からスペシャルニーズへの歴史

 

1980年代,障害とは「医学的・生物学的に見た心身機能の特殊な状態」と捉えられ,

障害者とは「疾患(障害)が固定化し永続する状態に陥った人」と見られていた.

つまり,精神や身体機能の一部に障害を受けていても,その人全体を,他の障害されていない.

 

機能や人格まで含めて外見的な障害面のみで判断し, 生活の全体が普遍的に障害状態下に置かれているものと見られてきた.

これは,英文表記にも見て取れる. disabled personまたはhandicapped personと称され. person (生活主体である人)全体を修飾する形容詞として.

disabledもしくはhandicapped という単語が使われていた.

その後. a person with disabilityもしくはa person with handicapへと 変化し,

現在は否定的なdisabilityも肯定的な表現 に変わり,person with special needsへと変化し ている.

 

国際障害分類(ICIDH)の意義と問題点

 

1980年に世界保健機構(WHO)は国際疾病分類の補足として

国際障害分類(International Classification of Impairments. Disabilities and Handicaps ; ICIDH)

を発表した.

ICIDHは,それ までの単に疾患や機能障害そのものが障害の原因であるという考えから,

疾患や機能障害から派生する障害 をimpairment (機能・形態の障害), disability (能力不全), handicap (社会的不利)という三層に階層化して構造化した点が画期的だったすなわち,

病気やけがが顕在化したものが機能・形態障害であり,

そのために実際の生活の中での活動能力が制約を受けることが能力障害であり,

さらに,そのため通常の社会的役割を果たせなくなることが社会的不利とされた.

そして,ひとりの障害のある人の中には,同時にこれらの三つの側面の障害が存在することを明示した.これにより,障害の各側面が及ぼす影響を,独立して把握することが可能となり,

リハビリテーション とその効果測定を構造的に実施できるようになった.

このICDIHは障害を理解するうえで,その後の医療 分野や福祉分野に多くの影響を与えている.

障害を論議する際に「医学モデル」と「社会モデル」 という概念が出てくる.

「医学モデル」とは,障害を 個人の問題として捉え,病気やけがの結果生じたものであり,治療やり八ビリテーションによって対応,克 服するという考えである.

これに対して「社会モデル」 とは‘障害の多くは社会環境によって作り出されたも のであり,問題は障害のある人たちの社会参加を妨げ ている社会的環境やシステム,物理的バリア,人々の 意識にあると考える.

そのような議論を重ねるうちに ICIDHにいくつかの問題点が指摘されるようになった。

そして2001年の国際生活機能分類(ICF) へと改訂された.

 

 

国際生活機能分類(ICF)

ICF (International Classification of Functioning.Disability and Health)は

人間のあらゆる健康状態に関係した生活状態から,その人をとりまく社会制度や社会資源までをアルファベットと数字の組み合わせで分類し,記述・表記している.

2001年に世界保健機構が発表したICFでは ICIDHにいくつかの変更点が設けられた.

 

中立的名称の採用

障害を三つの階層(レベル)においてとらえる点は変わりないが,

名称が中立的・肯定的な表現へ変化した.

すなわち,疾患は健康に,機能・形態障害は心身機能・構造に,能力障害は活動に

社会的不利は参加 へと変わった.

 

相互作用モデルの採用

ICIDHの-方向性の表現から,双方向に矢印を設けた交互作用を認めた表現となった.

環境因子と個人因子の「背景因子」としての導入

障害の発生における環境の重要性を考慮するために 新たに環境因子と個人因子が加えられた.同じ障害が あっても,先進国のバリアフリーの環境とそうでない 環境では障害の社会的不利が変化するという例などである.

活動の評価における「能力」と「実行状況」の区別

活動の評価において,訓練・評価時に一時的に発揮される「能力」(capacity)と現実の生活での「実行

状況」(performance)を区別することになった.

これは,「できる活動」と「している活動」の考え方と 一致するものである理学療法訓練中の自立歩行がわずかではあるが可能な障害のある人が,病室では寝 てばかりいるといった事例である.

 

分類の充実とバランス

医学モデルと批判されたICIDHでは機能障害の分類が詳しく,

能力障害,社会的不利の分類項目数が少 なかったものが.

ICFでは心身機能・構造の分類は簡 素化され活動と参加の項目は非常に詳細になった.

このような変更点を受け. ICFの考えが国際社会に 浸透し,国連での2006年の障害者の権利条約の採択へと実を結ぶ礎となった.

そして,日本においても 201 1年8月の障害者基本法の改正の中で「社会的障壁」と「合理的配慮」という考え方が追加された.

 

 

ノーマライゼーション

ノーマライゼーションの芽生え

バンク・ミケルセンはデンマーク社会省で知的能力 障害のある人々の施設行政を担当していたが,

その当時の施設の処遇は隔離的,保護主義で物理的条件も粗悪だった.この状況下で

「知的障害者の親の会」が発足し,親の会の願いに共鳴したミケルセンは,

社会省 への要請を文章化した際に,親の願いを一番よくあら わすものとして「ノーマライゼーション」という言葉 を利用した.

ノーマライゼーションとは,障害のある 人の能力を最大限に引き出し,発達できるようにするといった目的のために,

障害者個人のニーズに合わせ た処遇,教育,訓練を含めて,他の市民に与えられているのと同じ条件で彼らに提供することを意味している.

 

 

ノーマライゼーションの原理と展開

 

バンク・ミケルセンのノーマライゼーションの思想は1981年の国際障害年を契機に

世界に広まりス ウェーデンのベングド・ニィリエの提唱した「ノーマ ライゼーションに関する8つの原理」によって確立した.

ノーマライゼーションの確立によって知的能力障害 のある人たちの収容型施設に対する疑念が各地で起こり,

その結果,北欧,北米では脱施設化が進んだ.精神障害のある人たちへの措置入院や強制入院なども生活の場を病院から地域へと移行することになった.

 

 

オリティオブライフ(QOL)

QOL (quality of life)は「生活の質」と表される.

QOLはその実践が医療分野で提唱され,障害や疾患, 特異体質などの個人的限定状況の中で,疾患や障害と共存しながら,

いかに,生活。人生,生命の充実した 実感を味わえる日常が過ごせるかを考慮した医療であ る.

ターミナルケアでの緩和ケア,ホスピス,各種ア レルギー者への対応,摂食機能療法による経口摂取の 維持,回復などがあげられる.

この概念は,障害者歯 科の分野では特に重要で,障害のある人に診療を提供する際には,診療をとおして「障害の軽減,克服」を 目標とする考えを持たなければならない「障害の軽 減,克服」が障害のある人の生活の範囲を広げ,社会参加,機会平等への距離を短縮する.

障害の軽減克服のために重要な存在となるのが共同療育者である保護者や介助者である.

共同療育者と は,患者の成長,発達を考える上で医療と家庭,双方が協力し合った療育を行うにあたっての協力者である.

診療の場面だけの限定した関わりだけでなく,医療従事者と共同療育者とが同じ考え,目標を持って患 者と関わりを持つことが重要である.

 

 

歯科診療経験をとおしたQOLの向上

Down症候群の小児の患者さんが,近医での受 診を断られましたと,当センターを受診しました: 初診時は開口指示にも従えず.開口維持も困難で 口腔内診査もままならない状態でした.

歯科でのトレーニングを重ねるうちに,なんとか,開口指示に従え,簡単な治療には協力できる状態まで成長しました.

そんな時,母親から「この子は以前から中耳炎もあって医者嫌いで,耳鼻科では体を押えての診察だったのですが,最近は,問題なくできるよう になりました.先日も旅行先で風邪をひいて熱を 出してしまい,初めての小児科を受診しましたが,上手に□を開けて先生の診察が受けられました.

これも,歯科で頑張ったおかげだと感謝していま す.」

と言われました.

歯科での経験,頑張りによって医科の受診も容易になり,急な体調変化も気にしないで外出,旅 行が可能になったわけです.

この事実,変化こそ が「障害の軽減・克服」であり.障害のある人の QOLの向上に繋がるのです.

 

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