統合失調症(Schizophrenia)とは
日本精神神経学会によると,
「統合失調症とは,思考や行動,感情を1つの目的に沿ってまとめていく能力,すなわち統合する能力が
長期間にわたって低下し,その経過中にある種の幻覚,妄想,ひどくまとまりのない行動が見られる病態である」
とされている.
診断基準として国際的に認められているものに米 50 国精神医学会によるDSM-5がある.
(1)妄想
内容的にあり得ないことを強い確信を持って信じていること.
( 2 ) 幻 覚
現実には起こっていないのに五感のうちいずれかで感じてしまうこと.
(3)まとまりのない発語
文法的に通じない発言をしたり,頻繁に筋道から脱線してしまうもの.
(4)ひどくまとまりのない,または緊張病l性の行動
子どものような‘愚かな,行動から予測できない興 奮に至る状態となり,日常生活の活動を遂行するのは困難な状況になる.
(5)陰性症状
思考や行動のまとまりのなさ,能率の低下,ひきこもりなど.
原因・発生頻度
統合失調症の病因は現在も不明だが,何らかの遺伝 的な脳の機能異常と心理社会的なストレスの相互作用 が関係すると考えられている1,000人中7~9 人の発生頻度で,主に思春期から青年期に発症する.
統合失調症の診断基準
1)以下のうち2つ(またはそれ以上),おのおのが1カ月の期間(または治療 が成功した際はより短い期間)ほとんどいつも存在.
- 妄想
- 幻覚
- まとまりのない発語(例:頻繁な脱線または滅裂)
- ひどくまとまりのない,または緊張病性の行動
- 陰性症状(すなわち感情の平板化,意欲の欠如)
2)仕事,対人関係,自己管理などの面で1つ以上の機能が病前に獲得してした水準より著しく低下
3)病状の持続が6カ月以上
4)うつ病,燥病の合併がない
5)物質乱用,身体疾患によって生じたものではない.
6)自閉スペクトラム症の既往があった場合には,
幻覚や妄想が1カ月以上(治療した場合には短くてもよい)続いた場合
統合失調症治療に用いられる抗精神病薬
統合失調症の薬物療法には各種の抗精神病薬が用い られる.
抗幻覚妄想作用が強い服用薬としては
ハロペリドール,フルフェナジンが挙げられ,
鎮静作用が強 い服用薬としては
クロルプロマジン塩酸塩,レボメプ ロマジンがある.
そして,副作用が比較的少ない服用 薬としては
非定型抗精神病薬のリスペリドン,オランザピンがある.
口腔内の特徴
(1)陰性症状による口腔清掃不良
陰性症状により,口腔衛生への関心や口腔清掃意欲が乏しくなるため,
う蝕および歯周疾患が多発する場合がある.
(2)抗精神病薬の副作用
オーラルジスキネジア
舌,口唇,下顎などに生じる,自分の意志に関わり なく動いてしまう不随意運動である.
オーラルジスキ ネジアが生じると,クラスプや歯の鋭縁な箇所が粘膜にあたり,
口唇粘膜や舌に潰傷を形成する場合がある.
また,歯の切削時や岐合採得,義歯製作時の印象等が困難となる.
口腔乾燥
抗精神病薬は,自律神経に対する抗コリン作用により唾液分泌低下をもたらし,
口腔乾燥を引き起こす.
それにより,自浄性の低下や口腔細菌叢の変化がおこる.また,総義歯の維持が不良となることもある.
診療における注意点とその対処法
意思疎通が難しい
医療者側は訴えをよく確認し,その訴えが不合理な 場合でもいったんは傾聴する.
そして,各種検査によ る診断に基づいて,わかりやすい説明を患者の納得が得られるまで行う治療は,
あくまでも本人同意のもとに行うことが大切である .
不安・猪疑心が強い
歯科医師およびスタッフとの接触に不安を抱く.
被 害者意識を持ちやすい特に,痛みに対する奇異な反応がみられるため,
治療にあたっては,十分な除痛が 必須である.
抗精神病薬はアドレナリンと併用する とα作用の遮断によりβ作用が優位となり,
過度の 血圧低下を引き起こす可能性がある.
無関心な態度,思い込みが強い
患者の訴えのなかに誤った関連づけがみられた場合でも頭ごなしに否定せず,
タイミングをみてその誤り を明確に指摘することも必要である.
不可逆的な処置を急がず,ゆっくりとしたペースで治療を進める.
抗精神病薬の副作用としてみられる「錐体外路症状」とは
錐体外路(大脳皮質運動野から末梢に運動の指令を伝える神経路のうち,
錐体路以外の通り道)
に何らかの損傷を受けることにより生じる症状の総称.
主な症状には,
手足のふるえや身体のこわばり,歩行困難,じっとしてもられなくなる.
などがある.
パーキンソン病の症状としてみられるほか,抗精神病薬の副作用として出現することもある.
「精神分裂病」から「統合失調症」へ
かつて「統合失調症」は,「精神分裂病」と呼は れていたが.
「精神分裂」という言葉はマイナスなイメージが強く,
この病気や患者に対する誤解や偏見を助長してしまうことが懸念された.
全国精誇 障害者家族連合会が日本精神神経学会に名称の変 更を要望したことを契機に,
2002(平成14)年 の日本精神神経学会総会で「統合失調症」へと改 められた.
病名変更には,「精神分裂病」という病 名に刻まれた誤解と偏見,
不当な差別を解消し黄 いという想いが込められている.