パーキンソン病とは 

投稿者: | 2017年7月14日

 

パーキンソン病(Parkinson’sDisease)とは

パーキンソン病は,中脳黒質における神経細胞の脱落・変性により,

黒質から分泌されるドパミン量が減少して生じる,進行性の神経変性疾患である.

身体運 動機能を調節する脳内神経伝達物質であるドパミンが 減ることで,手足のふるえ,筋肉のこわばり,関節が 曲げにくい,といった症状が表れる.

 

原因

遺伝・環境的要因が複合的に関与していると考えられているが,

なぜドパミンが減少するのかは現在のところ不明である.

一部では,細胞中のレビー小体というタンパク質が溜まることが関連しているとされている.

 

発生頻度

中年以降,特に50~60歳代に多く発症し.

1000人に対して1~1.5人の発症率で, 日本においては男性より女性の方が多いと報告されて いる.

 

治療と症状

パーキンソン病の治療には,現在のところ根治 治療法はないが,対症療法として薬物療法が有効である.

 

主なパーキンソン病治療薬

L-dopa (レボドパ) 含有製剤 :ドスパストン,ドパゾール, ドパール,ネオドパスパン

抗コリン薬 :アーテン,アキネトン, トリモール,パーキン

ドーパミンアゴニスト(受容体刺激薬) 薬: パーロデル,ペルマックス

 

Wearing-off現象

L-dopa (レボドパ)の薬効持続時間が短縮し, 薬物濃度の変動とともに症状が変動する現象.

しかし,レボドパの長期使用で不随意運動が出現す ることがある.

on-off現象(症状の日内変動)

治療薬が効いている状態をオン現象,効いていない状態をオフ現象と呼ぶ.

しかし,長期間服用 している場合には. L-dopa服用時間とは無関係に症状が良くなったり(on),悪くなったり(off) する.

 

 

症状

パーキンソン病の症状は多彩であり,運動機能系の 障害,

精神機能系の障害および自律神経系の障害の3 群に大別することができる.

 

運動機能系 振戦,固縮,無動,姿勢反射障害

この4つの症状をパーキンソン病の四大主徴という 以下にこれらの具体的な症状を示す.

 

振戦

手・足・顎などが安静時(静止時)にふるえる.

歩行時や 座位では,特に上肢の振戦が 明瞭となり,筋が完全な弛緩 状態になる睡眠時は消失する.

また,意識的に動作を行う際,振戦は軽減または消失するので,

書字や物を取るな どの動作への影響は比較的軽度で,逆に精神的緊張で増強 することもある.

 

固縮

安静状態で四肢を他動的に伸展・屈曲させたときにみられる硬い抵抗感で,

ガクガクと断続的な抵抗を示す歯車用 現象がみられるのも特徴であ る.

四肢以外に頚部にも出現 する.

歯磨きなど一方の手で 随意運動をさせると,反対側の手の固縮が強くなる.

 

無動

すぐに動けない,動き出すまでに時間がかかる,

動き出してもゆっくりしか動かないなど,全般的に動作 が緩慢になる.

発語時の声量も小さく抑揚が乏しくな り,

表情筋もあまり動かないため仮面のような顔(仮面様顔貌)になる.

 

姿勢反射障害

前屈姿勢で重心が前方に移り転倒しすぐなる.

前頚筋の固縮により頚部が前方に屈曲し,体幹も前方へと 屈曲する.

しかし,病気が進行すると逆に後方へ倒れ やすくなる.歩行中の転倒は,

すくみ足や前方突進などにより,歩きはじめと方向転換時に顕著である.

 

精神機能低下

認知機能の低下,抑うつ状態,睡眠障害,幻覚(錯覚)妄想

 

自律神経系

便秘,排尿障害,流涎,起立性低血圧,嚥下障害

 

パーキンソン病と摂食噸下障害

パーキンソン病の約30~80%おいて,運動機能系の障害や薬物療法の影響により,摂食畷下障害が認められる 一般には.不随意運動による食塊のコントロール不良や.曝下機能の低下による誤瞬や食物による窒息の危険性も

ある.その他,自律神経系の障害による食事性低血圧では時に失神することもあるため,食事介助には十分な注意 が必要である.

 

分類

パーキンソン病は徐々に進行していく.その重症度 については,

日常生活の障害度をもとに分類した 「Hoehn and Yahrの重症度分類」が広く用いられる.

この分類でIII度以上になると,厚生労働省特定疾患として認定され,

医療費の助成などを受けることができる.

 

症状の進行と重症度Hoehn and Yahrの重症度分類

ステージⅠ

症状は一側の障害で,機能障害はないか,あっても軽症

ステージⅡ

両側性の障害はあるが,姿勢保持の障害はない.日常生活,職業には多少の障害はあるが行いうる.

ステージⅢ

姿勢保持障害がみられる.活動はある程度制限されるが,職業によっては仕事が可能である.機能障害は軽ないし中等度だが,1人での生活が可能である.

ステージIV

重篤な機能障害を呈し,自力のみによる生活は困難となるが,まだ支えられずに立つこと,歩くことはどうにか可能 である .

ステージV

立つことも不可能で.介助なしではベッドまたは車椅子での生活を強いられる.

出典)パーキンソン病治療ハンディマニュアル

 

 

口腔内の特徴

振戦や固縮など運動機能系の障害や自律神経系の障害により,

オーラルジスキネジア,咀嚼や嚥下機能の 低下,流涎がみられる場合がある.

さらに,薬物療法で使用される多くの薬剤では副作用として口渇があげられる.

それが原因でう蝕リスクが高くなることもある.

 

診療における注意点とその対処法

 

医療面接

現在の症状確認,服用薬剤名や量などを患者本人や,

介助者に医療面接にて確認する発症から長期経過している場合は,

症状の変動が多く認められるため,

必要に応じてかかりつけ医に対診し,投薬内容・量の変 更や歯科診療時の配慮点などを照会する.

また,日常生活の自立度(ADL)や食事状況についても確認しておくと,

嚥下障害の把握や口腔衛生指導時の参考となる.

 

対応

歩行や姿勢反射障害がある場合,診療室内の移動やユニットへの移乗時に足元への配慮が必要である.

言葉が早口でどもることもあるが,逆に反応はゆっ くりであるなど,

コミュニケーションをとる際はゆとりが必要である.

 

局所麻酔薬

L-dopa服用患者は,カテコラミンヘの感受性が高まっているため,

アドレナリン含有局所麻酔薬の使用 により,頻脈や血圧上昇が起こる可能性がある.

そのため,シタネストオクタプレシン,スキヤンドネストを選択する.

 

診療時間

パーキンソン病治療薬を長期服用している副作用として.

wearing-off現象があるため,

歯科治療の際は, 薬の効果時間帯(on状態)に合わせ,速やかに治療を終わらせることが望ましい.

多くの患者は自分のon状態の時間帯を把握しているため医療面接にて確認する.

 

起立性低血圧

パーキンソン病治療薬を服用している20~30%に起立性低血圧がみられるため,

治療後はユニットを ゆっくり起こす等の配慮が必要である.

口腔のケアの必要性

症状が進行して無動が顕著になると,噸下障害から誤嚥性肺炎を繰り返す.

そのため積極的な口腔のケアが重要である.

 

注水時の配慮

注水時にはバキューム操作に注意し,むせや誤嚥への配慮が必要である.

モニタリングを行うことで,むせによる血圧や動脈血酸素飽和濃度(SpO2)の変化を把握できる.

また,顔の表情が乏しい(仮面様顔貌〉 こともあるため,声かけしながら患者の様子を注意深く観察し,

診療を進める必要がある.

 

オーラルジスキネジア

ロをもぐもぐさせたり舌を出し左右に動かしたり,

歯を食いしばったり等の不随意運動(ジスキネジア) がでるため,

タービンやスケーラー使用時は,舌や頬 粘膜を傷つけないように注意をする.

不随意運動が強い場合には,精神鎮静法を併用し,診療を行う方法もある.

また,義歯の着脱困難や,義歯のクラスプなどで口唇や粘膜を創傷することもあるため,

病状を把握しながらの対応が重要である.

 

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