うつ病(MajorDepressiveDisorder)とは
うつ病(鬱病)とは精神障害の一種であり,抑うつ気分,意欲・興味・精神活動の低下,焦燥,食欲低下,不眠などを特徴とする.
2013年度から厚生労働省は,地域医療の基本方針となる医療計画に盛り込むべき疾病として指定した,
4大疾病(がん,脳卒中,心筋梗塞,糖尿病)に 新たに精神疾患を加えて日本の5大疾病とした.
うつ病(操うつ病も含む)は,精神疾患のなかでも著しく増加している.
原因
うつ病の原因や発症のメカニズムはまだはっきりとは判ってない.
年齢,職業などに係わらず誰でも患うる疾患であり,
凡帳面で責任感や正義感が強く,他人から信頼される真面目な人がなりやすいともいわれている.
発症頻度
日本では. 100人に3人~7人の割合でこれまで にうつ病を経験した人がいるという調査結果がある.
また,様々な身体疾患をもっている患者は,
うつ病 の発症率が高い例えば,
糖尿病患者の約20%が, 心筋梗塞患者の約15~30%が,うつ病を発症すると言われている.
分類
DSM-5においては‘気分障害領域において改訂がなされ,
双極性障害および関連障害は,抑うつ障害と明確に区分され,気分障害という用語は使われなくなった.
加えて,双極性障害および関連障害は,症状学的,疫学的,遺伝学的に統合失調症スペクトラム障 害および他の精神病性障害群と抑うつ障害との中間に位置づけられる見解となった.
抑うつ障害群
1重篤気分調整症
2うつ病/大うつ病性障害
3持続性抑うつ障害(気分変調症)
4月経前不快気分障害
5物質・医薬品誘発性抑うつ障害
6他の医学的疾患による抑うつ障害
7他の特定される抑うつ障害
8特定不能の抑うつ障害
双極性障害および関連障害群
1双極I型障害
2双極II型障害
3気分循環性障害
4物質・医薬品誘発性双極性障害および関連障害
5他の医学的疾患による双極性障害および関連障害
6他の特定される双極性障害および関連障害
7特定不能の双極性障害および関連障害
症状
(1)気分の症状 抑うつ気分,悲哀感,不安感,イライラ
(2)行動の症状 興味の喪失.集中力の低下,意欲低下.焦燥
(3)身体の症状 全身倦怠感,易疲労性,不眠,食欲低下,性欲減退,頭痛,頭重,肩こり,口渇,動悸,咽喉頭異常感,胃 部不快頻尿
思考の障害
些細なことへのこだわり,悲観的な考え方,自責感 ,自殺念慮,自殺企図
気分行動,身体反応,思考の4つの領域の症状は それぞれ関連しあっている.
口腔内の特徴
うつ病患者はまじめで凡帳面な性格の人が多いこと から,発症前は口腔内管理が良好な場合が多い.
しかし,うつ症状が強くなると気分が沈みがちで憂鬱になり物事に対して興味がなくなり意欲が低下していく.
そのため歯磨きに対しても意欲が無くなり,
今ま で清潔であった口腔内清掃状況が一転して不潔となることもあるため注意が必要である.
また,睡眠障害も 高頻度で出現するため生活環境の乱れも伴い全身状態の悪化,
抵抗力の低下から口腔内症状が現れてくることがある.
さらに,治療のために抗うつ薬や抗不安薬など処方されている場合には,
副作用として唾液の分泌抑制があるため口腔内症状の悪化がみられることがある.
それらの症状が認められた際には,普段以上に 患者の言動に注意し,
再度医療面接を行うなどの対応をしていくことで,患者の精神状態を把握する.
診療における注意点とその対処法
うつ病患者が来院時に自ら病状を申告してくること は希である.
医療面接状況や服用薬などから判断でき るが,患者自身はうつ状態と認識していない場合が多い.
まずは,患者の様子や行動,言動,表情などから 判断する必要がある.
うつ病患者が歯科受診する場合は,身体症状のうち,
口腔乾燥症,舌痛症,顎関節症,岐合異常感といった 不定愁訴の訴えが多い.
また,口腔内に限局する理解 不能な口腔異常感(糸が歯に巻き付いている,
口の中 の虫がネバネバしたものを出している,など)を訴える口腔内セネストパチーといった病状もある.
歯科診療にあたっては,患者の訴えが冗長でわかりづらくても
受容的に耳を傾け‘支持的に対応する.
また,不合理な自覚症状であっても頭ごなしに否定せず,訴えを受け止めて
精査する必要がある.患者をむやみに励まさないことも大切である.
しかし,患者の訴えに従い治療をしても症状の改善は期待できず,
信頼関 係を壊す結果となってしまうことがある.
また,適応力の低下がみられる場合には,歯冠修復,抜歯,抜髄や岐合治療などの不可逆的な治療,
義歯新製などは避けるべきであり,本格的な治療はうつ病の改善後に行うほうが望ましい.
一部の抗うつ薬は,アドレナリンと併用すると,アドレナリンの作用を増強し,
血圧が上昇する可能性が あるので注意が必要である.