脳血管障害(CerebrovascularDisease)とは

投稿者: | 2017年7月14日

脳血管障害とは 

脳血管障害とは,「脳血管に何らかの障害が起こり,

片麻痘や意識障害などの中枢神経起因の症状を突然起こす疾患の総称」で,

特に脳血管障害によって生じる 急激な脳症状を脳卒中という.

また,ほとんど自覚症 状のない「無症候性脳梗塞」や,

緩徐に進行すること の多い「血管性認知症」なども脳血管障害に含まれる.

 

原因と分類 

脳血管障害の主な原因疾患として,高血圧・糖尿病: 祷血性心疾患・腎疾患・高脂血症などがあり,

これらの疾患に曜患している患者および確患経験のある患者ではリスクが高くなる.

脳血管障害を大きく分類すると,

「脳梗塞」と「脳 出血」になる脳梗塞には脳塞栓と脳血栓および一過 性脳虚血発作があり,

なかでも脳血栓が多く認められ る.

また,脳出血を部位別でみると,脳内出血,クモ 膜下出血,硬膜下出血,硬膜外出血などと分類される .

 

脳梗塞

脳梗塞は,塞栓または血栓により脳動脈が閉塞または狭窄し,

その血管の支配領域組織が虚血状態となり壊死していくことである.

1日の中で最も血圧が低く なる夜中や早朝起床時に突発的に発症することが多 い.

脳塞栓

心房細動や不整脈などの心疾患に伴って,心臓内に生じた血栓が脳血管に流入して閉塞することで起こる.

脳血栓

脳動脈のアテローム硬化に伴って動脈の閉塞・狭窄 が生じ,血流障害により血栓が形成され発症する.

一過性脳薦血発作(TIA)

頚動脈などにできた血栓が剥がれ脳の血管に詰まることで,片側の手足がしびれる,

ふらつき,ろれつが 回らなくなる,など軽度の脳梗塞症状が現れる.

しか し,血栓が小さく一時的な血管のつまりで,

24時間 以内に血栓が溶けて自然に回復する場合,一過性脳虚 血発作という.

ただし,数カ月以内に同じような症状 を繰り返す場合は,

再発のリスクや脳梗塞を起こす可能性があるため注意を要する.

 

 

脳梗塞の初期症状

1片方の手と足に力が入らない

2顔を含む,身体の半身がしびれる
3ろれつが回らなくなる

4言葉が出なくなる
5片側の目が見えにくくなる

6視野の一部が欠ける

7物が二重に見える

8ふらついて立てない,歩けなくなる

「脳の病気は時間との勝負です.  顔,腕,言葉,視界がおかしくなったらすぐ病院へ」

 

脳出血

脳出血は出血部位により,脳内への出血(脳内出血) と脳周囲への出血(クモ膜下出血など)がある.

1日の中で最も血圧が高くなる朝10~12時ころに発症 することが多い.

脳内出血

脳血管動脈の血管壁に弾力がなくなり徐々に硬化して破れ,

出血した状態である.出血性素因,外傷など で起こりうるが,

原因として最も頻度が高いのは高血 圧症で,高血圧と動脈硬化が起こりやすい.

50歳代から増加し高血圧性脳出血とも言われる.

 

クモ膜下出血

クモ膜下出血は脳の表面を覆っている軟膜・クモ膜・ 硬膜の3つの膜のうち,

クモ膜と軟膜の間のクモ膜 下腔に出血をきたしたもので,

多くの場合,脳動脈癌 の破裂により起こる.激しい頭痛・悪心・ロ厘吐を主徴とし,

若年者では脳動静脈奇形により発症することが多い.

 

脳血管障害の後遺症  

脳血管障害の後遺症は脳の損傷部位とその広がり, そして損傷の重症度により様々な後遺症を引き起こす .

 

片麻痘

身体の一側に見られる運動麻痺である.

原因部位と して,大脳皮質,内包,脳幹・延髄上部がある内包 の障害では,

病巣と反体側の上下肢の麻痺と顔面神経, 舌下神経などの麻痘に伴う顔面,舌の麻痺を合併する.

右脳と左脳は延髄で交差しているため,左脳に障害を 受けると身体の右側に運動神経の麻痺が生じる

右片麻痺や,右脳に障害を受け身体の左側に運動神経麻痘が 生じる左片麻痺がある.

 

高次脳機能障害

脳機能に重度の障害を受けた高次脳機能障害の代表 的なものに,失語,失行,失認などがある.

1失語

失語とは,左側大脳半球の損傷により「読む」「書 く」「聞く」「話す」などの動作に障害を認める状態をいう.

主に失語は,発語は流暢だが言語理解に障害を認める流暢性失語(ウェルニッケ失語・感覚性失語) と,

発語は困難だが言語理解は比較的保たれる非流暢性失語(ブローカー失語・運動性失語),

そして「読む」 「書く」「聞く」「話す」などの言語機能が重篤に障害される全失語がある.

2失行

失行とは運動機能に障害がないのにも関わらず,

意 図した動作や指示された動作が行えない障害である.

例えば石鹸で手指を洗おうとしても手を水で流すことが理解できないなど,

一連の動作を順序良く行うことができなくなる観念失行や

「握手をして下さい」などの動作指示や模倣ができなくなる運動失行がある.

(例)・歯磨きの際,歯磨剤のキャップを開けるが歯ブラシにはつけず,そのまま磨き始める.

「うがいをして下さい」の指示に対し,

コップを手に取るが,そのまま水を流してしまう.

3失認

例えば正常に見えている物の色や形,そして用途が 理解できないなど,

意識障害や感覚障害がないのにも 関わらず視覚や聴覚や触覚などの,

特定の感覚路を通じて対象物を認知することができない障害である.

障害された大脳半球の対側からの視覚・聴覚・触覚

などの感覚刺激を認識できなくなる半側空間無視や,

麻痘側の身体が認識できなくなる半側身体失認がある.

(例)・歯磨き時,健側ばかりを磨き,患側は磨かない

・食事の際,食卓にある麻痺側の料理を見落とす.

 

摂食噸下障害

摂食臓下機能に関与する脳神経である三叉神経,顔 面神経,舌咽神経,迷走神経および舌下神経の

神経麻痺により,脳血管障害の後遺症として摂食畷下障害を認めることが多い.

特に,急性期では30~50%と 高率に合併し,6カ月経過後も6~7%残存する.

 

 

口腔内の特徴

知覚や運動麻痺のためブラッシングが困難となり,

口腔衛生状態は不良となることが多い麻痺側の食湾 の停滞や,

唾液分泌低下に伴う口腔乾燥を認めること もある.

麻痺により食漬の停滞が知覚しにくいため, う蝕や歯周疾患を重症化させる場合もある.

また根面 う蝕も多発する傾向にある.

脳障害部位の神経支配領域に一致して,口腔周囲に 障害が発現する.

中枢性顔面神経麻癖による下顎の健側への偏位,

舌下神経麻痺による舌突出時の健側への 偏位,舌咽神経麻痘による味覚低下などがある.

 

診療における注意点

(1)医療面接

脳血管障害の患者は,合併症・後遺症等で歯科診療にリスクを伴う場合がある.

また,服用薬剤等が歯科 治療に影響を及ぼすこともあるため,

医療面接において患者の病態を把握することは重要である.

後遺症等 のため,患者から十分な情報を得られない場合はかかりつけ医への対診が必要になる.

 

【面接事項】

a脳血管障害の種類

b発症時期

c脳血管障害発症後の病状経過

数カ月以内の病状(血圧,血糖値コレステロール値臨床症状,リハビリ訓練状況等)を確認する

d後遺症

e服用薬剤 降圧剤,抗血栓剤,強心剤,血糖降下剤,パーキンソン病治療薬等

 

歯科診療時の注意点

発症時期

a.急性期から回復期

6カ月以内 歯科診療は応急処置にとどめておくことが望ましい.

血圧・血糖値のコントロール不良な患者,

脳圧 冗進症状や局所神経症状の進行がみられる患者では,これらに対する治療が先行されるべきである.

b.慢性期

6カ月以降 一般治療時期であるが,血圧・血糖値のコントロー ル状況,

各種の臨床症状(めまい・言葉のもつれ・ 片側の手足のしびれなど)によって慎重に治療を進める必要がある.

 

血圧管理

歯科診療中の血圧の変動は,脳血管障害の再発と いう面から考えて十分注意しなければならない.

歯科治療中の痛み刺激や歯科治療に対する不安などの 精神的ストレスは,

血圧のコントロールが良好な場合でも上昇をきたすことがある.

ストレスを与えな いようモニタリングを行いながら慎重に診療を進める必要がる.

場合によっては鎮静法を併用するとストレスの軽減に有効である.

また,降圧剤を服用し ている患者は,起立性低血圧を起こしやすいため,水平位で治療後,背板はゆっくり起こす配慮が必要である.

 

局所麻酔

局所麻酔時の癌痛による血圧上昇を防ぐため,

刺入点にあらかじめ表面麻酔を施し刺入時の癌痛を軽 減するような配慮が望まれる.

パーキンソン病治療 薬(L – dopa)を服用している場合は,アドレナ リン含有局所麻酔薬による頻脈,血圧上昇がみられ ることがあるため注意が必要である.

 

観血処置

脳血管障害の患者は,抗血栓薬を服用している場合が多い.

原則的には,服薬中止によるリスクの方が高いと言われており,

服薬の継続下で観血的処置を行うことが推奨されている.

また,血糖値のコントロールが不良な患者や心臓 弁膜症・心奇形の患者には,

感染性心内膜炎予防のため抗生剤の術前投与を行うことが望ましい.

 

注水時

片麻痘などにより,タービンの水を口腔内に溜めることが困難な患者には,

ラバーダム防湿や座位姿 勢で診療を行うなどして,

できるだけ咽頭に水が流 れ込まないように注意する.

 

移動・移乗動作

移動・移乗時の介助は,基本的に普段から介助している人が行った方が患者の安心感が得られやすい.

歯 科医院のスタッフが介助を行う場合には,

事前に介助 方法について十分に間いておく必要がある.

 

摂食機能に問題がある高齢者への口腔ケア

口腔のケアで大切なことは歯や義歯に付着した食物残湾やプラークを取り除き.

口腔内細菌叢の徹底したコント ロールである.

そして,口腔のケアを継続することで咽頭部の細菌を減らすことが重要である.

高齢者の口腔のケアは,本人もしくは介助者によって口腔内を清潔に保ち,

口腔およびその周囲の働き(摂食 言語・情動表出・呼吸・生体防御機構・睡液分泌機能など)を

構成している諸器官の機能維持・回復を目指すもの である.

 

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